2004年のコンサートに戻る

2004年6月13日   Vol.25
                 
あじさいコンサート(亀工房:ハンマー・ダルシマー) 
 
 
 
あじさいコンサート
  映画『タイタニック』(1998)で描かれた三等客室でのパーティーシーン、あの最初の音楽は移民たちの故郷に伝わるケルト民謡でした。
亀工房のおふたりは、そんな古き佳き民俗音楽の美しさをアコースティック・ギターとハンマー・ダルシマー(*)で表現されるアーティストです。
どの曲の旋律も澄みわたり、目を閉じれば草の匂いや花の色、遠いあの日の微笑みが蘇ります。
でもそのうち、速く軽やかなリズムがどんどん迫ってきて、やがて素足で踊り出したくなるような心地良さで胸が一杯になるのです。
懐かしくてせつなくて、でもどうしようもなく明るくて清々しくて。涙はとまらないけれど、やっぱり笑っている。これが音楽というもののちから、私たちの星のフォークロアなのでしょう。
どうぞ、六月の庄兵衛にお出かけください。ちょっと忘れられなくなるひとときになると思います。
プロフィール
  亀工房
前澤 勝典:(アコースティック・ギター)
前澤 朱美:(ハンマー・ダルシマー)

アコースティック・ギターとハンマー・ダルシマーによるデュオ・バンド。

日本では珍しい「ハンマー・ダルシマー」の透明感ある澄んだ音色とアコースティック・ギターの温かみのある音色、この2つの生楽器の音色を大事にした緻密なアレンジにより2つの弦楽器だけとは思えないような重厚なハーモニーをかもし出し、「心地よい音楽」を括りにアイルランド、アメリカ、日本の民謡曲やオリジナル曲を独自のアレンジで演奏する。聴く人それぞれの「風景」が思い浮かぶような音楽を目指している。

1993年に結成以来、北海道〜九州そして離島まで、日本全国で演奏活動を展開する。
海外の演奏家との交流が深く、共演機会も多い。
自然豊かな土地に暮らすことを好み、2001年より長野県・高遠町に在住。

亀工房さんのホームページ

プログラム
 
  • 「双頭の鷲の旗の下に」 (ワグナー)
  • 「シンプル・ギフト」    (アメリカ民謡)
  • 「グリーンスリーブス」  (イングランド民謡
  • 「ドロシー・マギー」    (アイルランド民謡=映画「タイタニック」の中から)
  • 「主よ、人の望みの歓びよ」 (バッハ)
  • その他
ハンマー・ダルシマー
  台形の箱に張られた70本前後の弦を2本の木製のバチで叩いて演奏する打弦楽器で、ピアノの原型と言われています。 ルーツはイランの「サンツウール(百本の弦という意味)」に遡り、それが英国やアイルランドなどに伝わって「ダルシマー」と呼ばれる楽器が生まれました。

日本ではまだほとんど知られていない楽器ですが、その幻想的な音色はどこか懐かしい響きを抱いていて、いつまでも聴いていたくなるような美しさです。
あじさいコンサート                                       加納隆至
亀工房という,若く感じのいいご夫婦バンドによるハンマー・ダルシマーというめずらしい楽器の演奏を聞かせていただきました.米国ではかなりさかんだそうですが,日本では奏者が100人程度,プロとして活動しているのはせいぜい数人だろうとのことでした.ペルシャ起源でヨーロッパに入った古楽器で,台形の板に2本ずつ水平に張られた32対(コースと呼ぶらしい)の鉄線を木のばちの先についた円形の頭で叩いて音を出します.ピアノのルーツはチェンバロと思っておりましたが,さらに古いものがあったのです.

それにしても暖かみのある何というやさしい音色でしょうか.金属的だが柔らかく透明で,古代ペルシャの音が現代でも典雅に息づいている,と感じさせるものがあります.ハンマー・ダルシマーの原型となる楽器はペルシャから東にも伝わり世界中に広がったそうです.日本にも中国経由で渡来しましたが,残念ながら定着はしなかったそうです.

コンサートの曲目は欧米の民謡,ことにアイルランド民謡が多かったようです.この楽器にはひなびた感じの曲が似合うのでしょう.また300年前の吟遊詩人カロランの作も数曲ありました.カロランという盲目の楽士は,従者を一人連れて馬で諸国をさまよい,ハープを弾きながら一生を送った人だそうです.このような人の曲もこの楽器に合うのでしょう.

冒頭の曲「シーベグ.シーモア」はケルト語で「大きな丘.小さな丘」という意味だそうですが,これもカロランの曲です.奥さんの前澤朱美さんが演奏するハンマー・ダルシマーをご主人の前澤勝典さんのギターが脇からもりあげます.曲はインドネシアのガムランにも似たエスニックなあじわいでゆったりと進み,まるで春のひざしのうつろいの中に身を置いているようでした.

亀工房の演奏は,どれもそうですが,心地よい移動感があります.とともに情景や風景が次々と浮かんでは去っていきます.例えば「グリーンスリーブス」は,以前おとずれたイギリスで,車窓から眺めた田園風景を思いおこさせました.麦畑,とがり屋根の家,黒々とした森,小さな池,牧場でのんびり草を食べている牛の群れ,などです.懐かしさが胸にわきあがってくる演奏でした.また奥さんの独奏によるバッハの「主よ,人の望みの歓びよ」は,木漏れ日を映してきらきらと輝きながら流れていく谷川のせせらぎのような美しさでした.

移動感と情景描写の圧巻は「ジャーニー(旅)」でした.この曲は亀工房のオリジナルで,この曲名を冠したCDアルバムが最近リリースされたそうです.ご夫婦は,12歳を頭に5ヶ月の赤ちゃんまで5人の子だくさんです.この数を見るだけで,いかに夫婦の間の愛情が深いか,いかに家族・家庭を愛しておられるか,がわかります.週末を利用してのコンサート旅行には,子供たちもつれて行かれるそうで,「もう車の中は,ジグソーパズルをぶちまけた状態」だそうです.このような旅を曲にしたのが「ジャーニー」で,アスファルト道路を軽快に走る感覚を軸に,車中ひしめき合う子供たち,とその笑い声までも聞こえてきそうな,幸せで楽しい曲でした.

とても全部の曲を語ることができませんが,心温まるすばらしい演奏会でした.夫君の勝典氏はギター伴奏に徹しておられましたが,一曲だけの独奏「おじいさんの古時計」は,フォークギターの良さを一杯に引き出した好演奏でした.

今回のコンサートは,いつもと違ってステージが南側だったので,東縁から庭園が見え,木々と彼らがおりなす緑が息をのむほど美しく,いやが上にも演奏の効果をあげていました.まさに異次元空間で遊んだひとときでした.主催者の奥野ご夫妻とスタッフの方々に心から感謝いたします.前澤朱美さんは近く米国で開催されるハンマー・ダルシマーの国際コンクールに出場されるとのことですが,ご健闘を祈っております

2004/06/15