| 春待たるる日のコンサート |
| |
木の匂いのする音楽室で、初めて木琴をたたいた 日のこと、憶えていますか?
あれは、子猫を拾ったとき、心がとくんと奏でる 音。
隠れんぼしながらやってくる、春の足音にも似て いたような気がします。
マリンバは、そんな木琴よりさらに音色が柔らか く、1オクターブほど低音の楽器です。
軽やかに愉しく弾むかと思えば、ある曲ではモダ ンな迫力、
ある曲では寒さにかじかんできた胸の奥を優しく 溶かしてくれます。
木や紙といった自然素材だけで構成されているこ の屋敷では、
さらに独特の響きに出会えるかもしれません。
春を待つ日をご一緒に、桜の庄兵衛でお過ごしく ださい。
|
| プロフィール |
| |
◆上田邦子(うえだくにこ)
クライネ・フェーゲル主宰。国立音楽大学器楽科 卒業。現在、相愛大学音楽学部講師。
NHK洋楽 オーディション合格。同調会演奏会をはじめ、様々なコンサートに多数出演し活躍を続ける。
◆河角悦江(かわすみえつこう)
相愛大学器楽科打楽器専攻卒業。元、四条畷学 園講師。ヤマハミュージックスクール講師。
沙羅の木会、大阪文化祭参加講演、近畿大学交響楽団等、数多くの演奏活動を行なっている。
|
| プログラム |
|
1 熊ん蜂の飛行
2 ロンドンデリーの歌
3 グラナダ
4 アメージング・グレイス
5 ビートルズ・ナンバーより
6 コンドルは飛んで行く
7 剣の舞い
8 プリズム(二台のマリンバの為の) 9 グリーンスリーブス
10 エンターテナー
11 シンコペイテッド・クロック
12 さくら
その他…
|
| 代々の庄兵衛さま 梅沢 英 |
 |
寒さも少しやわらいだ2月9日、庄兵衛さんちにお邪魔しました。この日は、上田邦子さんと河角悦江さんによるマリンバ・デュオのコンサート。あのどっしりとした門をくぐると、一気に懐かしい空間に招かれたようで、ワクワクした気持ちに包まれました。
広間は、ほぼ満席状態。誰もいない、だだっ広い様子は知っているのですが、みなさんが座っていると、さしもの50畳もこじんまりと見えますね。
「春待たるる日のコンサート」のタイトルにふさわしく、上田さんは黄色、河角さんはピンクの豪華なドレスで登場。現われるだけで花が咲いたようです。いくぶん緊張した様子の上田さん、幕開けの「熊ん蜂の飛行」で卓越した技量を存分に。上田さんのマリンバは、パイプオルガンのような太い音でメロディーを包み、「ロンドンデリーの歌」「グラナダ」と、思わず口ずさみたくなる曲が続きます。
「100年前のローズウッドでできている」というマリンバから生まれた丸い音は、木の年輪のようにゆっくり家の中に広がり、同じように長い時を重ねた梁や欄間に吸い込まれていきました。まったく、この空間にぴったりの音、マリンバと庄兵衛さんのデュエットではないかと思うほど。長く伸ばす音は、印象派の点描画のごとく、小さな音をつないで表現。哀愁を帯びた「コンドルは飛んでいく」は、遥かアンデスの空へ誘われるようでした。
休憩時間には、お茶とお菓子がふるまわれるなんて、嬉しい驚きでした。チョコレートをのせた懐紙には、春を先取りするチューリップのスタンプが。版画をはさんだパンフレットも然り、隅々にまで手作りの温かさと心配りが感じられます。
当日の聴衆の多くは、私と同じ「マリンバ初体験」だったに違いありません。だから、第2部の上田さんの「マリンバの基礎知識」は興味深かったですよ。マリンバの起源は中南米やアフリカで、ドレミの音階が生まれたのは100年ほど前だとか。戦後ようやく日本に輸入されたけど、マリンバ専用の曲がなく苦労したことや、組み立てるのには公演と同じくらい時間がかかること、マリンバをたたくマレットは、高い音を出すためには固いもの、低い音には柔らかいもの…など、さまざまなエピソードを聞いてマリンバという楽器がいっそう身近に思えました。
レパートリーは幅広いジャンルに及び、最後は日本の調べで締めくくり。「ずいずいずっころばし」「さくら」「お江戸日本橋」など、マリンバの特長を引き出すリズミカルなアレンジでとても新鮮でした。そして、アンコールは、「ゆうやけこやけ」。切ない余韻がいまでも耳に残っています。
庄兵衛さんちを後にする人々は、とても満ち足りた穏やかな表情をしていましたね。それはマリンバの音を聴いたせいだけではなく、脈々とこの家に注がれてきた、多くの人の息遣いも一緒に感じたからでしょう。そんな私たちを、代々の庄兵衛さんたちは、ほほ笑ましくご覧になったのでは。気配が音の滋味を増し、時の営みが空間に奥行きを与える。堆積した時間が、優しい音とともに、心にゆっくりと染みていくこんな場所を、私は他に知りません。
|